創世記に “蛇”は登場していなかった!

   

 先回は、創世記2,3章の 「善悪の知識の知識の木を食べる」と言う表現の意味について書きましたが、これは文字通りの意味ではなく、 「ヤハウェが設けた法律(神の義の基準)を無視する」という事を、象徴的に表していると言う事でした。

それで今回は、そのヤハウェが設けた法律を無視するよう、エバを誘惑した悪魔サタンルシファーの事が、なぜ創世記3章で 「蛇」 と書かれてあるのか?という事について簡単にまとめてみました。 

悪魔は”蛇”を使って騙したのではない!

創世記3章4,5節
蛇は女に言った。「決して死ぬことはない。それを食べると、目が開け、神のように善悪を知るものとなることを神はご存じなのだ。」
女が見ると、その木はいかにもおいしそうで、目を引き付け、賢くなるように唆していた。女は実を取って食べ、一緒にいた男にもわたしたので、彼も食べた。
(新共同訳)

創世記3章13節後半
女は答えた。「蛇がだましたので、食べてしまいました。」(新共同訳)

 創世記3章を見ると、このように“蛇” がエバに話しかけた事が書かれてあります。

この "蛇" と言うのは悪魔サタンルシファーの事ですが、これはルシファーが 蛇を使ったり、蛇に憑依してエバに話し掛けたと言う事ではありません。

当たり前ですが、爬虫類の蛇が人間のように喋る事は出来ませんよね(>_<)

なぜ”蛇”と書かれてあるのか?

 実は、この創世記3章で  "蛇"と訳されている部分ですが、原語の古代ヘブライ語では ナハシュ と言う単語が使われており、この単語にはもともと 光の使い(輝く光を放つ聖なる者) と言う意味がありました。

つまり、ここで悪魔サタンルシファーは、蛇を使ってエバに話しかけた訳ではなく、正しくは ナハシュ(光の使い) を名乗り、高次元からの使いを装って、肉体をつけてエバの前に現れたという事です。

 では、原語ではナハシュ(光の使い) と書かれていたのが、なぜ蛇になったのか?という事ですが、

簡単に言うと、このナハシュという単語が、元々の"光の使い"という意味に加え、途中から “蛇”と言う意味でも用いられるようになった為、本来は "光の使い" と訳されるべきこの語が、翻訳の過程で “蛇” と訳されてしまったからです。 

"ナハシュ(光の使い)"が翻訳の過程で”蛇”になった経緯

 そのようにナハシュ(光の使い)が 、翻訳の過程で 蛇 に変わってしまった経緯について、大まかに説明します。

 まず、この創世記(原本)をモーセが古代ヘブライ語で筆記したのが、紀元前1514年~1513年頃の事です。

そこから千年近くが経過した紀元前586年のバビロン捕囚の頃、ユダヤ人のあいだでナハシュと言う単語が、 “蛇” と言う意味でも使われるようになります。(時期については諸説あり、断定は出来ませんが、バビロン捕囚の頃という説が一番有力との事。)

要するに、古代ヘブライ語のナハシュと言う単語は、歴史的に意味が分化し、“光の使い”と “蛇” と言うこの二つの意味で使われるようになったという事です。*1

 それでこのバビロン捕囚の後ぐらいから、写字生と呼ばれる人達によって、モーセ五書*2の原本をもとに、多くの写本が書かれるようになりますが、

前述したように、ナハシュと言う単語が  “蛇” という意味でも使われるようになっていった為、一部の写字生たちは、この創世記に出てくるナハシュと言う単語が 、 “蛇”  の事を指していると誤った解釈をし、ナハシュが “蛇” であることを匂わせるような記述を、個人的な考えで写本に書き加えてしまったのです。

バビロン捕囚時のバビロン(新バビロニア帝国)では、種々の神々が崇拝されており、 その中の一つとして蛇崇拝も普通に行われていましたので、恐らく、そういった影響も少なからず受けていた一部の写字生たちが、この部分を “蛇” であると誤って解釈したのではないかと推察されます。

写本と言うのはどんどん書き写されていきますので、その写本から書写された写本にも、このナハシュは蛇であると思わせるような記述がさらに書き足され……といった具合で、徐々に写本が改ざんされていきました。

もちろん、全ての写本がそのように改ざんされていった訳では無く、ほとんどは、原本からきちんと書き写されていった正当な写本でした。

ただ創世記の写本の一部には、  “蛇” に関連する記述が書き足され、原本からブレていった写本もあったと言う事です。

(これまでに発見されている創世記の写本はこの二種類で、大体バビロン捕囚の頃から一世紀にかけて書かれたものです。)

創世記の古代ヘブライ語写本
原本から正しく書き写された正当な写本
ナハシュが蛇であることを匂わせるブレた写本 

 それから西暦400年前後になり、ローマカトリック教会が、聖書を一般人に読ませまいとして、聖書を古代ヘブライ語写本から、ラテン語ウルガータ訳に翻訳します。

その際、翻訳者であったヒエロニムスは、正当な写本のほうではなく、"蛇"を匂わせる記述が書き加えられた、ブレた写本のほうを参考にして翻訳をした為、恐らく、このナハシュと言う単語が、"光の使い”の事ではなく、ハナから “蛇”  の事であると思い込み、ラテン語で"蛇" を意味する単語に翻訳したと考えられます。

つまり、原語の古代ヘブライ語写本からラテン語ウルガータ訳に翻訳されたこの時に、ナハシュが完全に"蛇" になってしまったと言う事です。

さらにこの時にも、 “蛇” を匂わせる意訳が書き加えられました。

従ってそれ以降、日本語訳の聖書を含め、ラテン語ウルガータ訳経由で翻訳された聖書では、原語で"ナハシュ"と書かれていた部分が、全て "蛇" と訳されるようになったという事です。

 このような経緯があり、創世記3章にはそもそも最初から蛇など登場していないにも関わらず、 “蛇”  がエバの前に現れて喋ったと言うお話になってしまった訳です。

”ナハシュ”を”蛇”にしたのは悪魔サタンルシファー

 もちろん、そのように歴史を通じて ”ナハシュ= 蛇 ”となるようにヒエロニムスの時代まで導いていった張本人は、悪魔サタンルシファーです。

ルシファーは、創世記3章14節後半でヤハウェの言われた「お前は、生涯這いまわり、塵を食らう。」と言う言葉を聞いて、まるで蛇のようだと思い、光の使い(ナハシュ)を蛇にしようと企てました。

創世記3章14節
主なる神は、蛇に向かって言われた。「このようなことをしたお前は、あらゆる家畜、あらゆる野の獣の中で呪われるものとなった。
お前は、生涯這いまわり、塵を食らう。(新共同訳)

 ちなみに、この3章14節中ほどの「あらゆる家畜、あらゆる野の獣の中で」という部分が、正当な古代ヘブライ語写本にはない、後から書き加えられた "蛇である事を匂わせる記述" の一つです。

また、3章1節の「主なる神が造られた野の生き物のうちで、もっとも賢いのは蛇であった。」と言う記述も同様に、後から書き加えられた部分になります。

この二つの聖句で “蛇” と訳されている部分を、“光の使い” と正しく変換すると、文脈に整合性が取れないのはその為です。

 

 古代ヘブライ語の写本は、これまでに、創世記だけでも何万点と発見されていますが、その中には、先ほど述べたように、正当な写本と、ナハシュが蛇である事を匂わす記述が書き加わり、ブレてしまった写本のこの二種類があります。

そしてヒエロニムスが参考にしたと思われるブレた写本は、その何万点という写本のうちのわずか数百点であり、その他の数万点は正当な写本でした。

これまでに発見された創世記の古代ヘブライ語写本の数
①正当な写本…数万点
②ブレた写本…数百点

 しかし、この数万点のほうが正当な写本であるということは、ヒエロニムスがラテン語に翻訳した当時には、まだ分かっていなかったのです。

ですからヒエロニムスは、圧倒的に少数だった”蛇”を匂わす数百点の写本の方を、「希少で価値がある!こちらが正しい!」…と、考えたかどうかは定かではありませんが、結果的に間違った方を物差しにして翻訳してしまった、と言うことですね(>_<)

 この二種類の写本はどちらが正しいのか?と言う事は、長い間一つの論点となっていましたが、1947年(実際の発見はこれより前)に「死海写本」が発見された事で、 “蛇” を匂わせた写本のほうが間違いだったと言う事が明らかになり、この論争に終止符が打たれます。

ヒエロニムスが参考にした写本の方が間違いであったと言うのは、今では常識となっていますが、ただ、この創世記のナハシュに関しては、残念なことに完全に悪魔にやられてしまった(蛇にされてしまった)と言うことです…。

正しく翻訳された聖書もある!

 ちなみに、過去にいた何名かの翻訳者たちの中には、ラテン語ウルガータ訳経由ではなく、正当な写本から翻訳している人たちもいました。

その中で有名なのが、ウィリアム・ティンダルです。

ウィリアム・ティンダルは、創世記の"ナハシュ”の箇所を"蛇”と訳さずに、そのまま"ナハシュ”と音訳しています。(本物のウィリアム・ティンダル訳聖書に限る)

 また、他にも正当な写本から翻訳されている聖書はあるので、全ての聖書がラテン語ウルガータ訳経由と言うわけではありませんが、大半の聖書はラテン語ウルガータ訳経由であり、どの言語でも “蛇” と訳されているとの事です。

 そして、正当な写本のほうを物差しにして書かれ、"ナハシュ”の部分が正しく"光の使い”と訳されている聖書はあるにはありますが、*3

そもそも、「アダムとエバは、”蛇” に騙されてりんごを食べた。」と言う聖書物語が一般的になっているので、"光の使い”と書かれてあっても、イコール蛇のことであると認識されてしまっているのが現状のようです。

”ナハシュ”が”蛇”になるよう導いた悪魔の意図とは?

 では先ほど、”ナハシュ=蛇 ” になるように導いたのは悪魔サタンルシファーであると述べましたが、その様に導いたルシファーの意図は何だったのでしょうか?

実は、これには悪魔サタンルシファーの、ヤハウェに対する挑戦の意図があり、その策略によってルシファーは現在でも、世界中の多くの人を惑わすことに成功しています。

その事についてはまた次回以降に、書けたら書きたいと思います。

 

*このブログは、KSRG様からの情報(過去動画やブログなど)を元に、個人的にまとめさせて頂いているものです。
間違った情報もあるかもしれませんので、大きな苦難に関する最新情報や、最新の聖書の正しい知識は、KSRG様のブログyahweh-ksrg’s blog や、YouTubeチャンネルFrom KSRGをご覧頂けたらと思います。

*1:それまで古代ヘブライ語に蛇を指す言葉が無かったと言う訳ではありません。一口に蛇と言っても沢山の種類がおり、タンニン(タンニーン)、ツェファ、ツィフォーンというこの3つの語で呼ばれていました。そこにナハシュという語も加わったという事です。

*2:モーセ五書旧約聖書の最初の5つの書。創世記、出エジプト記レビ記民数記申命記

*3:英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語の聖書の中に、”光の使い”と訳されている聖書がある。